復職後、わからないことがあっても、職場の先輩に声をかけられず、一人で抱え込んでしまうことがあります。
「忙しそうだから、今は聞かないほうがいいかもしれない」
「こんなこともわからないのかと思われそう」
「質問したら、迷惑をかけるかもしれない」
そう考えているうちに、聞くタイミングを逃し、仕事が進まなくなってしまう。さらに、「やっぱり自分は仕事ができない」と自信をなくしてしまう。
今回は、実際に復職されたクライエントさんが、認知行動療法の「行動実験」を使って、職場の先輩に声をかけられた事例をご紹介します。
個人が特定されないよう、内容は一部変更しています。
先輩に質問できず、一人で抱え込んでいた
その方は、以前から職場で質問することが苦手でした。
わからないことがあっても、
「質問したら迷惑をかける」
「こんなこともわからないのかと思われる」
と考え、なかなか声をかけられませんでした。
本当は聞いたほうが早いことでも、自分だけで何とかしようとしてしまう。結果として仕事がうまく進まず、さらに自信をなくす。
このような状況が繰り返されていました。
オンラインリワークの最終回では、認知行動療法のおさらいとして、実際に職場で起きていた「先輩に質問できない」という場面を取り上げました。
考え方を見直すだけでは、元に戻ることがある
認知行動療法では、
「嫌われているのではないか」
「迷惑に思われるに違いない」
といった、自分を苦しくさせている考えを見直していきます。
その考えをそのまま事実として受け取るのではなく、
「本当にそうだろうか」
「別の見方はないだろうか」
と検討し直します。
この作業を通して、その方も、
「もしかすると、自分がそう思い込んでいるだけかもしれない」
と気づくことができました。
これは、とても大切な変化です。
ただし、新しい考え方を見つけても、実際の職場に戻ると、
「やっぱり迷惑かもしれない」
「やっぱり嫌な顔をされるかもしれない」
と、元の考えに戻ってしまうことがあります。
頭の中で考えを見直すだけでは、「本当に大丈夫なのか」という確信を持ちにくいからです。
そこで行うのが、行動実験です。
行動実験とは
行動実験は、自分の考えや予測が本当に正しいのかを、実際の行動を通して確かめる方法です。
たとえば、
「先輩に質問したら、迷惑そうにされる」
と考えている場合、その予測が本当に起こるのかを、小さな行動で確かめます。
手順は次のとおりです。
確かめたい考えや予測を書く
実際にどうなると思うかを具体的に予測する
その予測を確かめられる行動を、小さく試す
予測と実際の結果を比べ、わかったことを書く
大切なのは、無理に大きな行動をすることではありません。
いきなり何でも質問できるようになる必要はありません。
「わからないことを一つだけ聞く」
「比較的忙しくなさそうな時間に声をかける」
「まずは確認という形で聞いてみる」
このように、小さく試します。
実際に先輩へ声をかけてみた結果
その方は、実際に職場で先輩へ声をかけました。
すると、先輩は普通に教えてくれただけでなく、
「わからなかったら聞いてね」
と声をかけてくれたそうです。
その方が予測していた、
「迷惑そうな顔をされる」
「こんなこともわからないのかと思われる」
ということは、実際には起こりませんでした。
もちろん、一度の経験だけで、長年の思い込みがすべて変わるわけではありません。
それでも、
「思っていたことと違った」
という経験が一つ増えることには、大きな意味があります。
自信は、頭の中だけでは作れない
私は、自信は頭の中だけで作られるものではないと思っています。
「大丈夫だと思おう」
「もっと前向きに考えよう」
と自分に言い聞かせても、確信を持てないことがあります。
一方で、
「やってみたら、案外大丈夫だった」
「思っていたほど嫌な反応ではなかった」
「普通に対応してもらえた」
という経験は、自分の中に事実として残ります。
この事実が少しずつ積み重なることで、次の行動が取りやすくなります。
復職への自信も同じです。
自信がついてから行動するのではなく、小さく行動してみることで、自信が育っていきます。
「事実」なのか「まだ確かめていない予測」なのか
「きっと嫌われる」
「どうせ無理だ」
「失敗するに違いない」
このような考えが浮かんだときは、次のように考えてみてください。
これは事実だろうか。
それとも、まだ確かめていない予測だろうか。
予測であることに気づいたら、その予測を確かめられる小さな行動を考えます。
たとえば、
「朝、自分から挨拶してみる」
「質問を一つだけしてみる」
「完成前に途中経過を見てもらう」
「困っていることを短く伝えてみる」
などです。
行動実験は、無理に自分を変える方法ではありません。
自分が信じている予測を、現実の中で確かめる方法です。
復職準備では、考え方と行動の両方が必要
認知再構成によって、新しい考え方を見つけることは大切です。
ただ、その新しい考えを自分のものにするためには、実際に行動して確かめることが必要です。










